感電


人間稼業を60年以上やっていて、かつ、電気に関わる仕事や趣味をやっているので、これまでよく感電をしてきた。幸い高圧(AC600V,DC750Vを超え7000V以下)には触れていないので命を永らえてきている。最初の感電は高校3年生の時と思うが自作の真空管のアマチュア無線用送信機を調整していて誤って真空管(807)のプレートを触り右手の指から肘にかけてガーンと言う衝撃を受けて痛い思いをした事があった。電圧は多分、直流の500V程度だったかと思う。

その次は会社に入って1年半くらい経った梅雨の時期に直流100Vの配電盤の検査をしていてドライバーが直流に触れ感電した。この時はなかなかドライバーが手から離れずしばらく「あぁーあぁーあぁー」と叫んでいた。梅雨時で手が湿っていたのと、直流は零点が無いので感電時の離し(離れ)にくさを実感した。その当時(40年位前)は現在のような握り手部分がプラスチック製のドライバーは少なく、使っていたドライバーの握り手は木製で、ドライバーの先端から握り手を貫通して頭部分は鉄製であった。それ以後ドライバーの先端を残しその他の部分はビニルテープで巻いて感電防止を図った。

その後、幾度と感電を経験したがつい最近、またまた感電をした。今回は感電するかも知れない実験をしていて感電をしたのだから世話は無い(^・^)。3Φ3WのAC460Vの対地電圧266Vで感電した。実験に先立ち手袋をすればいいかなぁと思ったが手元に無く取りに行くのもじゃまくさいので素手でやったのが感電のもとであった。箱の塗装膜厚がどれほど絶縁効果があるかと言う事を確認のため箱の接地端子に266Vの一端をつなぎ、もう一端は手の平に見立てた100×200mmの鋼板(T字形にして持ち手をつけた)を右手に持って塗装面を当たっていた。110μA~200μAくらい流れた。隣の箱のドアが開いていたので、左手に持ち替えた。そして右手でドア触った。途端にビリビリきて左手の鋼板を投げ捨ててしまった。箱→丁番→ドア→金属製ハンドル→右手から左手へこの間に266Vが架かった。箱~ハンドルまでの接触抵抗と私の体の抵抗とによる電流が流れたことになる。無意識でこんな事をやってしまった。

これまで自身の体に右手から靴を介して1mAくらいを流したが多少ピリピリする位で別になんとも無いがそれ以上を流すのは気持ちが悪いのでしていなかった。腰痛の時に整形外科で架けた低周波治療のほうがまだピリッとする。活線の場合は長袖と手袋を身につけることを再認識したお粗末の一席であった。(^◇^)

電気設備技術基準・解釈ハンドブックによれば、人に対する通電電流(mA)とその時間(S)に対する安全限界は I=165/√t (mA) とされ、下記の左表となり、式中 t は5秒以下の通電時間としている。また、その関係は下記の右表のようになると記載されている。

通電時間(秒) 通電電流(mA)   通電電流(mA) 人体の感覚
0.1 530.0   1.2 接触部に知覚がある。
0.2 370.0   3.5 手が軽い硬直を起す。
0.3 300.0   5.5 下腕に痙攣を起す。
0.5 230.0   8.0 手が硬直し、努力しなければ離れない。
0.8 190.0   10.0 非常に不愉快となり、一般的に痙攣する。
1.0 175.0   12.0 肩に痙攣を起こし、30秒以上我慢できない。
2.0 120.0   15.0 非常に努力しなければ離れない。
3.0 95.0   20.0 離れることが出来なく、15秒以上我慢できない
4.0 88.0   50.0 相当に危険である(実験はしていない)。
5.0 75.0   100.0 致命的となる(実験はしていない)。



低圧電路地絡保護指針 JEAG 8101-1971 によれば、アメリカのダルジュール氏は上記よりも安全サイドの I=116/√t (mA) を論文で発表している(時間は8ms~5sの範囲)。また、西ドイツのケッペン氏は 50mA・S一定 で、1秒超過の領域では50mA一定として論文を発表している。ただし、50mA超過の連続通電の影響については報告されていない。

千葉大学工学部 川瀬教授の著書「現場の接地技術と接地システム」によれば、今日のような国際化時代にあって、感電電流の安全限界が国によってマチマチでは具合が悪い。たとえば、家庭用電気製品はわが国の重要な輸出商品であるが、家庭用電気製品の感電防止対策が国により違うようでは大変不便である。

そこで、IEC(国際電気標準会議)で協議の結果、下図のような標準特性が決定された。IECの特性では、I-T平面を4本の曲線で区切っている。その結果、I-T平面は5個の領域に分けられる。心室細動というのは、電流によって心臓のコントロール系が混乱して痙攣を起こすことで、これが起きると大体助からない。したがって、領域④、⑤は完全に危険範囲である。領域③は安全領域とみなしてもよいが、今日では余裕を持たせるためここも危険領域に入れ、曲線bを危険と安全の境界とするのが世界の大勢である。これはダルジュール氏、ケッペン氏のものより安全サイドとなっている。


  参考文献
 「現場の接地技術と接地システム」、川瀬太郎著、㈱オーム社、1993.12.20
 「低圧電路地絡保護指針」、電気技術基準調査委員会編集、社団法人日本電気協会、1971.4.25
 「図説 電気設備技術基準・解釈ハンドブック、電気技術研究会編集、㈱電気書院、2002.4.10